お知らせ

神戸市室内管弦楽団に寄せられたメッセージ

これまで共演いただいた方や音楽関係者の方から神戸市室内管弦楽団にメッセージが寄せられましたので、ご紹介します。


 

ライブの音楽は、もう2度と蘇ることはない「今」を大事にする時間
-川口成彦 フォルテピアノ奏者

 昨年名古屋駅にて「喫茶 ボン・ヴォヤージュ」という看板の書体からしてレトロな店が新しく出来ていたのを発見しました。「新しく」と言ってもどうやら多くのお客様に愛されていたことからの20年ぶりの復活オープンのようでした。私はその時店に入ることは出来ませんでしたが、「最近やっぱりこういうレトロ趣味や懐古趣味のものがやたら目につくな」と思ったゆえに、すごい頭に刻み込まれていました。役所広司主演の2023年の映画『パーフェクト・デイズ』も思い出されます。主人公は令和の時代にも関わらずカセットテープで音楽を聴く時間を愛していました。そう言えば、若者たちにレトロブームが巻き起こっているというニュースも何年か前に見ました。今や平成まで「レトロ」対象で、画素数の荒い平成の中古デジカメが「エモい」ゆえに再注目する人も出てきているらしく驚きました。小学生がネットで音楽を聴くのではなく、「え、こっちの方がいいじゃん」ということであえてCDで音楽を聴く子もいるという話をしてくれた人もいました。そしてLPレコードも近年ますますファンが増えていると聞きます。

 もちろん人それぞれですが、「レトロ」関連の話題や物事を見聞きする度に、あらゆる人たちが「情緒」を追い求める時代になっているのだろうと思ってなりません。我々は昔と比べておそらく遥かに情緒が欠如した世界を生きているに違いないからこそ、情緒を自ら掴み取りにいかなければならないのかもしれません。生産性や機能性を重視するのであれば、人間はややこしい喜怒哀楽を伴う心をいち早く捨てて、電気ではなく血液で動くロボットと化した方が良いかもしれませんが、今の時代でも多くの人間はまだ人間でいようとしている気がします。

 神戸市室内管弦楽団が存続の岐路に立たされているという状況は、音楽という側面において情緒の炎が消えていこうとする未来を暗示する出来事の一つでしょう。2014年にやはり運営資金難などで歴史あるローマの歌劇場が潰れそうになるニュースに驚いた日も懐かしいですが、世界中でそんなことばかりです。日本でクラシック音楽を積極的に聴こうとする人は人口に対してかなり少数なので(本当か分かりませんが、5%と聞いたことがあります)、「神戸から電車に乗って他のオーケストラ聴きに行けばいいだけのことでは?」「オーケストラでなくとも音楽は聴ける」「YouTubeで十分」など色々な意見が出てくるだろうし、人それぞれ考え方や価値観は違うので何が正しいというわけでもありません。けれど、「それは確かに暗示している」のだと思います。

 ライブの音楽は録音とは違って、もう2度と蘇ることはない「今」を大事にする時間だと私は思っています。再現性のある情報に塗れた現代社会だからこそ、その価値について考える日が増えました。そして昔私の友人が言いました。芸術に触れる時間は人間が人間の心を思い出して、人間に戻る時間だと。なるほどなと思い、私はその考えを一人の演奏家として大切にしています。2022年秋に鈴木秀美先生の指揮と共に神戸市室内管弦楽団とフォルテピアノを用いて共演した思い出は今でも大切にしています。あの日神戸に集ったお客様と、もう二度と戻らぬ「今」を共有しました。

 「情緒」やら「心」やら「人間」やら。そのような美しい言葉で語ったところで何も解決に至らない複雑な状況と想像しますが、音楽や芸術「も」多くの人が大事に出来る余裕のある世界を切に祈るばかりです。今がたとえ難しかったとしても、そのような未来の在り方を一人でも多くイメージ出来る日が来ますように。


2022年10月1日(土) 神戸市室内管弦楽団第155回定期演奏会「秋のシンフォニー」/神戸文化ホール大ホール(©米田フォト)
〈川口さん演奏曲目〉ショパン:ピアノ協奏曲第2番ヘ短調作品21


音楽の真意とともに楽しさを追求している楽団

-高関健 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 常任指揮者
      仙台フィルハーモニー管弦楽団 常任指揮者/
富士山静岡交響楽団 首席指揮者

 神戸市室内管弦楽団が市民の皆様のご理解を賜り、これまで通りの演奏活動が続けられることを強く要望いたします。国内各地のオーケストラが、特にコロナ禍以降の難しい状況に苦心惨憺しながらも、それぞれ独自の活動を模索しています。その中で神戸市室内管弦楽団は、もっとも純粋に音楽の真意とともに楽しさを追求し得ています。神戸市混声合唱団とのコラボレーションも独特で、ほかに代え難い。音楽界全体にとってなくてはならない意義のある活動を、神戸の皆様が良く理解してくださることを心から希望いたします。継続こそ力です。私も皆様と共に神戸市室内管弦楽団の今後の活動を心より応援してまいります。
これからも音楽の素晴らしさを一緒に体験してまいりましょう。

 

オーケストラは地域と町のシンボル
-大友直人 京都市交響楽団 桂冠指揮者

 オーケストラは地域と町のシンボルです。その町の文化度を示す分かり易いバロメーターです。これは既にアジア諸国を含めた世界の共通認識です。国際都市神戸には日本を代表するオーケストラの1つがあるのです。長年にわたり立派な歴史を刻んできた名門神戸室内管弦楽団の活動は神戸の町に相応しく更に輝かしく豊かなものになるべきです。文化都市神戸市のイメージは先日来の報道で既に崩れ始めています。鈴木秀美さんという全国のオーケストラも羨む名指揮者を音楽監督に迎え、まさにこれから一層の飛躍が期待されている今、これを機会に神戸室内管弦楽団の再認識と力強い支援の輪が広がることを願っています。