お知らせ

神戸市室内管弦楽団に寄せられたメッセージ

これまで共演いただいた方や音楽関係者の方から神戸市室内管弦楽団にメッセージが寄せられましたので、ご紹介します。

 


 

未来の中の今を見つめていかなければ
-小山実稚恵 ピアニスト

今回、神戸市室内管弦楽団の未来に暗雲が垂れ込めているというニュースが流れました。何という事だろうと思うと同時に、音楽家として何とかしなければならない、と思いました。なんとしてもこの貴重な音楽の火を絶やすことなく未来に繋げなければならない。今だけを見つめるのではなく、未来の中の今を見つめていかなければと感じています。

神戸市室内管弦楽団の活動が今後ずっと継続できることを祈り、それを信じております。

2024年6月15日(土)神戸市室内管弦楽団 第163回定期演奏会「果てなき道へ…」/神戸文化ホール大ホール(©米田フォト)
〈演奏曲〉ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 作品37

 

音楽は記憶と連結し、思い出をつくる
-堀朋平 音楽美学者

 いちばん大切な風景は? そう問われたら、兵庫区の都由乃町にある狭い路地を挙げよう。ここで少年時代の1年半を過ごした私にとって、あの坂と階段ばかりの町並みは決して色あせない。シラーの言葉を借りれば「心情を伴奏する風景」なのだ。

 あれから30年あまり。音楽美学者となった私は、拠点=大阪とのご縁も重なり、神戸市室内管弦楽団からレクチャーや解説の仕事をよくいただく。鈴木秀美さんとは対談を重ねるうちに、電話やメールでシューベルト話に興じるほどに。

 秀美さんとの対談のあとは、時間があればタクシーで10分ばかり足を延ばして、故郷をしばし散策。小学校は商業施設に変わってしまったけれど、その界隈は変わりようがなく、いつも私を迎えてくれる。

 神戸文化ホールで秀美さんが振るハイドンとシューベルトには、特有の騒めきがある。この騒めきには、私の30年ぶんの年月が詰まっていると感じられる。何を大げさな、と思われるかもしれない。でも音楽はそのようにして自在に記憶と連結し、事後的に思い出を作ってくれる。だからいいのではないか。

 川口成彦さん(本サイト)のひそみに倣うわけではないが、アニメ作品『攻殻機動隊SAC_2045』(2020-22)が描くように、これからはノスタルジアが人間の宝となるだろう。自分史と結びついた土地の匂いが。そんな場を消去する決定が、将来の人間たちから何を奪うことになりうるのか、私たちはよくよく考えなくてはならない。

鈴木秀美×堀朋平 解説対談|第171回定期演奏会『大いなる旅立ち』/神戸文化ホール

 

神戸市室内管の出演を経験して、今の自分がある
-大澤明 1986〜1993年在籍チェロ奏者

 私が大学3回生の時に合奏団が出来た。高嶺の花で練習のためのエキストラに呼ばれて行ったら隣の人と指揮者が喧嘩になり、隣の人が退場して私がチェロ1人になって緊張した。後に帰国したばかりの鈴木雅明さん、出国する前の鈴木秀美さんと常に音楽が出来たのはラッキーだった。

 ツアーや数多くの修羅場の様な怖い演奏会を経験して今の自分があります。

 ここ最近もエキストラに呼んで頂き喜んでいた矢先の騒動、神戸市だけでは無く音楽史の上でも日本の宝の室内管弦楽団が【存続】しますように!

 

 

 

このオーケストラが持つポテンシャルは稀有
中江早希 ソプラノ歌手|布施奈緒子 メゾ・ソプラノ歌手|櫻田亮 テノール歌手|氷見健一郎 バス歌手

 私たちは2025年11月、神戸市室内管弦楽団の皆様とベートーヴェンダブルビル ”ミサ・ソレムニス”、”第九”公演でソリストを務めました。
 この度、本団体が解散の危機に直面しているという報に接し、共に舞台を創り上げた仲間として、どうしてもお伝えしたいことがあり、筆を執りました。

 私たちは歌い手として、様々な団体と共演を重ねております。その目から見ても、このオーケストラが持つポテンシャルは極めて稀有なものと感じています。
 特に、定期公演にて、ベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」と「第九」を二日間にわたって連続上演するという試みは革新的で、このプログラムを成し遂げる実行力は、日本全国はもちろん、世界を見渡しても誇るべきものです。

 また、歌い手の繊細なニュアンスを聴き取り、見事に調和させるアンサンブル能力の高さには、
私たち自身が圧倒され、音楽家として大きな刺激と成長をいただきました。
 舞台の上で感じた彼らの誠実な人柄、そして音楽を共有した時間は、私たちにとって一生の宝物となっています。
 一つのオーケストラがなくなることは、単に「演奏会が減る」だけのことと思われるかもしれません。
 しかし、これほど高い志を持ち、市外から来る演奏家に「この街の文化レベルは凄まじい」と確信させる団体は、そう簡単に作れるものではありません。

 神戸市室内管弦楽団を解散するということは、神戸市で長年培ってきた財産を自ら手放すことに他なりません。
私たち4人は、この素晴らしいオーケストラがこれからも存続し、神戸市に豊かな音楽を届け続けられることを、心より強く願っております。

 

                                                     2026年4月26日

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年11月15日(土)神戸文化ホール開館50周年記念事業 〈ベートーヴェン・ダブルビル〉『ミサ・ソレムニス』/神戸文化ホール大ホール
©米田フォト)

 

神戸市が世界に誇る室内オーケストラここにあり!
黒田博 声楽家

神戸という町の名を聞いて私の頭にうかぶもの、
お洒落なファッション、国際的な港、洗練された洋菓子やスイーツ。
2024年12月に神戸市文化ホール開館50周年を記念して、
ヴェルディ「ファルスタッフ」を上演。
稽古のために公演までの一ヶ月間、神戸に滞在した。
稽古以外の時間はあちらこちらを歩き回った。
町歩きで楽しかったのは昔からの商店街。
私が思い描いていた神戸とは違う、
温かく、活気に満ちた人達が生活する町があった。
30年前の震災から復興したエネルギーを感じた。
そして、この町は自前の室内オーケストラと合唱団を持っている。
「ファルスタッフ」オーケストラ合わせの折、
オーケストラから第一音が鳴った瞬間、
私は嬉しくて、思わず大声で笑いそうになった。
強烈なエネルギーに満ちた、しかし攻撃的ではない温かい音色。
まさに神戸室内の音が40年以上かけて熟成させたアンサンブル。
神戸市が世界に誇る室内オーケストラここにあり!と心の中で叫んだ。
あの時、ともに演奏できた喜びは今も鮮明に思い出す。 

音楽、芸術は人の命からは一番遠くにあるもの。
けれども人の心の一番近くにあるもの。
その宝物を神戸市は失ってはいけないと思う。

2024年12月21日(土)神戸文化ホール開館50周年記念オペラ ヴェルディ《ファルスタッフ》 ファルスタッフ役 /神戸文化ホール大ホール

 

ライブの音楽は、もう2度と蘇ることはない「今」を大事にする時間
-川口成彦 フォルテピアノ奏者

 昨年名古屋駅にて「喫茶 ボン・ヴォヤージュ」という看板の書体からしてレトロな店が新しく出来ていたのを発見しました。「新しく」と言ってもどうやら多くのお客様に愛されていたことからの20年ぶりの復活オープンのようでした。私はその時店に入ることは出来ませんでしたが、「最近やっぱりこういうレトロ趣味や懐古趣味のものがやたら目につくな」と思ったゆえに、すごい頭に刻み込まれていました。役所広司主演の2023年の映画『パーフェクト・デイズ』も思い出されます。主人公は令和の時代にも関わらずカセットテープで音楽を聴く時間を愛していました。そう言えば、若者たちにレトロブームが巻き起こっているというニュースも何年か前に見ました。今や平成まで「レトロ」対象で、画素数の荒い平成の中古デジカメが「エモい」ゆえに再注目する人も出てきているらしく驚きました。小学生がネットで音楽を聴くのではなく、「え、こっちの方がいいじゃん」ということであえてCDで音楽を聴く子もいるという話をしてくれた人もいました。そしてLPレコードも近年ますますファンが増えていると聞きます。

 もちろん人それぞれですが、「レトロ」関連の話題や物事を見聞きする度に、あらゆる人たちが「情緒」を追い求める時代になっているのだろうと思ってなりません。我々は昔と比べておそらく遥かに情緒が欠如した世界を生きているに違いないからこそ、情緒を自ら掴み取りにいかなければならないのかもしれません。生産性や機能性を重視するのであれば、人間はややこしい喜怒哀楽を伴う心をいち早く捨てて、電気ではなく血液で動くロボットと化した方が良いかもしれませんが、今の時代でも多くの人間はまだ人間でいようとしている気がします。

 神戸市室内管弦楽団が存続の岐路に立たされているという状況は、音楽という側面において情緒の炎が消えていこうとする未来を暗示する出来事の一つでしょう。2014年にやはり運営資金難などで歴史あるローマの歌劇場が潰れそうになるニュースに驚いた日も懐かしいですが、世界中でそんなことばかりです。日本でクラシック音楽を積極的に聴こうとする人は人口に対してかなり少数なので(本当か分かりませんが、5%と聞いたことがあります)、「神戸から電車に乗って他のオーケストラ聴きに行けばいいだけのことでは?」「オーケストラでなくとも音楽は聴ける」「YouTubeで十分」など色々な意見が出てくるだろうし、人それぞれ考え方や価値観は違うので何が正しいというわけでもありません。けれど、「それは確かに暗示している」のだと思います。

 ライブの音楽は録音とは違って、もう2度と蘇ることはない「今」を大事にする時間だと私は思っています。再現性のある情報に塗れた現代社会だからこそ、その価値について考える日が増えました。そして昔私の友人が言いました。芸術に触れる時間は人間が人間の心を思い出して、人間に戻る時間だと。なるほどなと思い、私はその考えを一人の演奏家として大切にしています。2022年秋に鈴木秀美先生の指揮と共に神戸市室内管弦楽団とフォルテピアノを用いて共演した思い出は今でも大切にしています。あの日神戸に集ったお客様と、もう二度と戻らぬ「今」を共有しました。

 「情緒」やら「心」やら「人間」やら。そのような美しい言葉で語ったところで何も解決に至らない複雑な状況と想像しますが、音楽や芸術「も」多くの人が大事に出来る余裕のある世界を切に祈るばかりです。今がたとえ難しかったとしても、そのような未来の在り方を一人でも多くイメージ出来る日が来ますように。


2022年10月1日(土) 神戸市室内管弦楽団第155回定期演奏会「秋のシンフォニー」/神戸文化ホール大ホール(©米田フォト)
〈演奏曲〉ショパン:ピアノ協奏曲第2番ヘ短調作品21


音楽の真意とともに楽しさを追求している楽団

-高関健 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 常任指揮者/
      仙台フィルハーモニー管弦楽団 常任指揮者/
富士山静岡交響楽団 首席指揮者

 神戸市室内管弦楽団が市民の皆様のご理解を賜り、これまで通りの演奏活動が続けられることを強く要望いたします。国内各地のオーケストラが、特にコロナ禍以降の難しい状況に苦心惨憺しながらも、それぞれ独自の活動を模索しています。その中で神戸市室内管弦楽団は、もっとも純粋に音楽の真意とともに楽しさを追求し得ています。神戸市混声合唱団とのコラボレーションも独特で、ほかに代え難い。音楽界全体にとってなくてはならない意義のある活動を、神戸の皆様が良く理解してくださることを心から希望いたします。継続こそ力です。私も皆様と共に神戸市室内管弦楽団の今後の活動を心より応援してまいります。
これからも音楽の素晴らしさを一緒に体験してまいりましょう。

 

オーケストラは地域と町のシンボル
-大友直人 京都市交響楽団 桂冠指揮者

 オーケストラは地域と町のシンボルです。その町の文化度を示す分かり易いバロメーターです。これは既にアジア諸国を含めた世界の共通認識です。国際都市神戸には日本を代表するオーケストラの1つがあるのです。長年にわたり立派な歴史を刻んできた名門神戸室内管弦楽団の活動は神戸の町に相応しく更に輝かしく豊かなものになるべきです。文化都市神戸市のイメージは先日来の報道で既に崩れ始めています。鈴木秀美さんという全国のオーケストラも羨む名指揮者を音楽監督に迎え、まさにこれから一層の飛躍が期待されている今、これを機会に神戸室内管弦楽団の再認識と力強い支援の輪が広がることを願っています。